最初に質問を一つ。あなたにとって、次のどちらが簡単ですか?
A | B |
今から楽しい気持ちになってください | 今から右手を挙げてください |
身体に障害がなければ、多くの方は、「Bの右手を挙げる方が簡単」と答えます。
理由ははっきりしていて、「気分や感情はそんなに簡単に変えられないけど、手はすぐ挙げられるから」と返答されます。
要は、気分や感情を変化させるよりも、行動を変化させる方が簡単である、と言えます。
私たちは、日頃の疲れを解消するために、映画を観たり、ジョギングしたり、誰でも何かしら活動をしている訳ですが、これらの活動は、何らかの行動を通して気分を変化させる行為です。
今回のテーマである行動活性化も、簡単に言えば、「行動から気分を変えていこう!」、という方法です。
では、行動活性化について詳しくみていくことにしましょう。
感情・考え・身体反応・行動は、相互作用している
行動活性化を説明する上で、まずはその大元の考え方である認知行動療法について簡単にみていきます。
人間の反応は、「感情」・「考え」・「身体反応」・「行動」、これら4つの側面に分けて考えることができます。また、この4項目は相互に影響を与え合っています。
例えば、混雑する駅のホームで人とぶつかって怒りが沸いた人の、4項目の反応を例に挙げてみると、以下のようになります。
感情(気分): イライラする | 考え(思考): ぶつかってるのに謝りもしないなんて、 失礼にも程がある! |
身体反応: 心臓の鼓動が早くなり、頭がカッと熱くなる | 行動: 相手を大声で怒鳴りつけようとする |
さて、ここで注目してほしいことは、
人間は、「感情」や「身体反応」を、意識的にコントロールすることが難しい。
一方で、「考え」と「行動」は、意識すればコントロールすることもできる。
以上の点です。
そもそも、この4つの項目はお互いに密接な相互作用を示す関係にあるので、意識すればコントロールできる「考え(思考)」と「行動」を変えることによって、「感情」や「身体反応」へも自然に働きかけていくことができるわけです。
以上が、認知行動療法の大まかな説明ですが、これに沿った治療法が行動活性化となります。
行動活性化とは、行動から感情や気分の改善を図ろうとする方法
抑うつ的な状態や、それに伴うやる気のなさ・倦怠感などが生じている時に、ついつい布団で横になってしまうことはないでしょうか。
元気になるのを待っていても、いつ具合が良くなるのかわかりませんし、結果的にそのまま1日が過ぎてしまうことも珍しくありません。
行動活性化とは、このように気分が停滞している時に勧められる方法です。
行動活性化は、気分が停滞していても、あえて楽しめそうな事や充実感を得られそうな行動をとってみることで、「活動してみたら、意外と楽しめた。倦怠感がなくなった」という結果を導こうとするものです。
行動活性化のメリット
行動活性化には以下のようなメリットがあります。
- 自分のやりたい活動を好きに選べる
- 時間や場所、費用を気にせずいつでも実施できる
- 手軽に気分の改善を図れる
- 合わなければすぐに止められる
自分のやりたい活動を好きに選べる
行動活性化は、その時々の自分の状態に応じて、やりたい活動を好きに選べる点が1番のメリットです。
特にこれといった決まりがあるわけではないので、誰でも自由に自分なりの活動を行うことが出来ます。
例えば、運動が好きな方は、運動を行えばよいですし、逆に運動が苦手な方は、無理して行う必要がありません。運動が苦手でも、自分のペースでやってみることもできるので、気楽に始めることができます。
時間や場所、費用を気にせずいつでも実施できる
時間や場所、活動にかかる費用などを自由に設定することが出来るので、いつでも何らかの活動をすることが可能です。
例えば、天気が悪かったり体調が悪い時は、無理に外出せずに室内で出来ることを選んでも良いですし、金銭面を掛けたくなければ、そのような活動を選べばよいだけです。
手軽に気分の改善を図れる
好きな音楽を聴いているうちに、自然と気分が良くなって、思わずフレーズを口ずさむことがあるかと思います。
アロマキャンドルを灯せば、自然と良い香りに包まれてリラックスできます。
行動活性化は、その位の手軽さで気分の改善を図ることができます。
合わなければすぐに止められる
長い時間かけて、結果を出す必要はありません。
何か始めてみたけど、どうもしっくりこないと感じることは、良くあることです。
続けてみるのも良いですし、止めてみても構いません。気分が改善するかどうかは、結局やってみなければ分かりませんし、結果的に改善しない場合だってあります。
何だかこの活動は合わないなぁと感じたなら、そこですぐに止めてしまえるのも、行動活性化の良い点です。
行動活性化のデメリット
行動した結果、返って疲れてしまった、返って自信を失ってしまった、という場合も起こるかもしれません。
「以前はもっと楽しかったのに」「以前はもっと上手く出来たのに」と、元々好きだった活動を行うと、以前の良かった時の自分と比較してしまい、返って気分低下を招く場合もあります。
いつも通りの活動では、変化を期待することが難しいかと思います。
以前の自分と比較せず、新鮮な気持ちで取り組めるように、今まで自分がやったことのない活動を取り入れてみることをお勧めします。
行動活性化の具体的なやり方
繰り返しますが、特にこうしなければならないという決まりがある訳ではありません。
「気分が乗らないけれど試しにやってみる」ことが、行動活性化のポイントなので、あとは活動するだけです。
もっと細かく自分の状態を把握したい場合は、以下のような具体的なやり方があります。
- 事前に行動記録表を付ける
- 気分の乗らない時間を把握し、行動活性化を試す
- いつも行っている活動ではなく、新しい活動を試してみる
事前に行動記録表を付ける
行動活性化を行う前に、まずは24時間の行動記録表を1週間程付けてみると良いでしょう。
就寝や起床、食事、入浴など、どの時間に何をやったのか、簡単に記録して、その活動中の気分を0~5で点数化してみるようなやり方です。
記録を付けてみることで、どの時間帯に気分が乗らなくなっているのかが、はっきりしてきます。
気分の乗らない時間を把握し、行動活性化を試す
現状を把握した上で、どの時間帯にどのような活動を行ってみると気分良く過ごせる可能性があるかを事前に検討して、準備してから取り組むと、より効果的です。
例えば、記録を付けた結果、朝方に気分低下がみられるので、その時間にあえてサイクリングをしてみることにします。ですが、目的地が決まっていなければ、いざ外に出ても、どこに向かえばよいものか困ってしまいます。そうならないように、前日の夜に、目的地を決めておくと良いでしょう。
いつも行っている活動ではなく、新しい活動を試してみる
取り組む活動は、今まで行ったことのない新しい活動も準備しておくと良いでしょう。
「行動活性化のデメリット」の項目でもお伝えしましたが、普段から行っている活動だと、そもそも取り組む気が起きなかったり、取り組んでも以前と比較して返って気落ちしてしまう可能性もあります。
ストレス対処法の考え方として、「質より量」というものがあります。
出来る活動の種類が少ないと、それらが上手くいかなければ手詰まりになってしまいます。
普段から、新しい活動を増やすことも、意識に留めておきましょう。新しい活動は、小さな取り組みで構いません。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は行動活性化についてみてきました。
いつでも、どこでも、誰でも、簡単に行える方法ですので、ぜひ1度試してみてください。
また、「そうはいっても、改めて何をすれば良いか分からない」という方もいると思いますので、今後このサイトでも、活動の参考になるような「行動活性化のレシピ」をご紹介していこうと考えています。